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六章 「避けられない運命」

Author: 桃口 優
last update Huling Na-update: 2025-08-27 14:27:35

 時間とは何もできなくてもちゃんと進むもので、あの日から十年が経った。

 私は時間とは恐ろしいと感じている。

 後悔しても時間は返ってこないけど、彼のことに関しては悔やまれることばかりだ。

 どうしてもっと踏み込めなかったのだろう。どうして気持ちを伝えられなかったんだろう。なぜあんなことをしてしまっただろうか。

 疑問系ばかりが残る。

 それでも、今の私は少しは前を向きたいと思っている。

 私は、二十五歳になった。

 今会社に向かっている。

 朝の日差しが暖かくて気持ちいい。

 茶色のカールされた髪が歩く度に揺れている。子どもの頃は黒色でそれほど長さもなかった。

 大学を卒業後、就職のために上京してきた。

 今は広告会社の営業職として働いている。

 子どもの頃から人と話すのは好きだったというもあるけど、知的な彼に憧れてこの仕事を選んだというのが大部分だ。

 大学生の頃は私の考える軸は、彼だけだった。

 働き始めるまでに、男の人に「付き合ってほしい」と声をかけられることは正直数回あった。でも、彼が好きだから、全て断ってきた。

 そんな状態だったのに、働き始めて忙しさから自分の時間がとれなくなると、私は彼への連絡を段々としなくなっていった。いや、正確にはそんな体力が残っていなくてしたくてもできなかった。

 それまではあれからずっと彼と連絡をとっていた。多くはないメッセージも不満ではなかった。

 楽しいと心から感じていた。

 仕事が休みの日には、彼にメッセージを送った。今なかなか連絡できないことも謝った。でも私はいつものようにすぐに返事が返ってこないことにその時いらいらを感じてしまった。普段なら気にならないことなのに、仕事をしているとレスポンスが早いから余計にもやもやしたのだ。仕事と私生活を完全に一緒のものと考えてしまっていた。

 私は線引きができなくなっていた。

 環境が変われば、生活も変わるのは仕方ないかもしれないけど、彼のことを好きという気持ちは変わらないのにそんな風に感じている自分が嫌いだった。

 でも仕事の忙しさは変わらず、どうにもこうにもできなかった。

 どんどんそれが普通になっていった。

 そして、少しずつ減っていた私からの連絡はいつの日からか全くなくなった。

 彼からそのことについて何度も連絡が来ることもなかった。

 彼の態度が変わったわけではないのはわかっている。仕方ないことではないのもわかっている。彼への負い目は心の奥底に眠らせた。もう起こすことはないかもしれない。

 仕事が慣れてきた頃、会社の上司に「いい人がいる」と、桐山卓也さんを紹介された。

 正直気乗りはしなかったけど会社の上司ということもあり断りきれず、時間を設け一度会ってみることにした。

 もちろん、抵抗感はあった。すぐに仕事でいっぱいいっぱいになる私が今恋人を作っていいのかと思った。彼のことが一瞬頭に浮かんだ。でも自分が悪いとすぐにかき消した。

 桐山卓也さんの第一印象はスーツの似合うかっこよくて大人な男性だった。実際私より年齢が五つ上なんだけど、そういう大人な感じではなかった。話し方は落ち着いているし余裕がある。

 でも、仕事の話となるとガラッと雰囲気が変わった。

 言葉もハキハキと喋り、自信にあふれているのをみていると、ギャップを感じたのと私にはない魅力をもっていると思った。

 それから何度かデートを重ねた。

 仕事ですぐにいっぱいいっぱいになることもデートの時に伝えた。卓也さんはそんな私を否定せずしっかり受け入れてくれた。

 正直、私は一人でいる寂しさに耐えられなかったのだと思う。元々寂しがり屋だし、彼を思い続けてきたけど、実際はずっと一人だったから。

 誰かに肯定してもらいたかった。卓也さんがそんな時私を肯定してくれた。

 私は、卓也さんと付き合うことにした。

 恋人になるには、タイミングと会える頻度もかなり重要だとその時になって初めてわかった。

 会えなければ何も始まらない。

 そのまま大きな問題が起きることなく交際は順調に続いていき、今は卓也さんと私は婚約している。

 結婚する日程ももう決まっている。

 卓也さんに対して、何の不満ももっていない。

 風が勢いよく吹き突然まぶしさも感じ、私は目を閉じた。

 目を開いた時に、私の目線の先に男性がいるのを見つけた。

 知っている人ではなかったけど、なんだか懐かしさを覚えじっと見つめてしまった。

 その時心の奥に隠していた思いが動き出した。

 その男性は、なんと彼だった。

 私はすぐにワイヤレスイヤホンを外した。

 子どもの頃より身長はかなり伸びていて顔も大人っぽくなっているけど、当時の優しい雰囲気は変わっていなかった。

 見落とすことなんてありえなかった。

 私は頬に冷たさを感じてそっと拭ってみると、それは私の涙だった。

 私は自分の感覚や感情とは別に、涙を流していた。

 彼に再び会えて、私の身体と心が喜んでいるようだ。

 ひどい態度をとったのは私だったのに、私はこの瞬間を待ち望んでいたようだ。

 彼にとったら調子がいい女性だろうか。いや、彼はそんなことを絶対言わない人だ。

 あの仕事の忙しい時期は、私たちにとって試練だったに違いがないと思えた。あの時はうまくできなかったけど、神様はもう一度だけ私にチャンスをくれた。今度は絶対逃したくない。

 そんな思いだけで、他の感情が入らないぐらい胸の中がいっぱいだった。

 彼のことを思い出さないようにしていたけど、私たちは再び出会う運命だったようだ。

 それはきっと避けられないものだ。

 でも、気づいたのは私だけだったようで、彼は特別驚いたような顔をしていない。

 でも、これから何かが始まる予感を私はその時確かに感じたのだった。

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